ARB ACE阻害薬 違いと降圧薬の選び方を薬剤師が解説
最終更新日: 2026-08-14
📋 この記事のポイント
  • ✓ ARBとACE阻害薬は、どちらも血圧上昇に関わるホルモン経路を抑える極めて有用な降圧薬です。
  • ✓ 主な違いは「作用する段階」と、ACE阻害薬に特徴的な副作用である「空咳」の発生頻度にあります。
  • ✓ 併存疾患(糖尿病、心不全、腎臓病)や年齢、誤嚥リスクなどを考慮し、最適な薬剤が選ばれます。
※ 本記事は医療広告ガイドラインに基づき作成されています。記事内には当院の治療・サービスに関する情報が含まれます。

ARBとACE阻害薬の違いとは?

高血圧治療において広く使用されているARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)とACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬は、いずれも体内で血圧を上げるホルモンシステムに働きかけるお薬です。両者とも心臓や腎臓を保護する効果に優れていますが、薬理作用のターゲットや引き起こされる副作用、特に「空咳(からせき)」の頻度に明確な違いがあります[3]。

血圧をコントロールすることは、単に数値を下げるだけでなく、将来的な脳卒中や心筋梗塞、腎不全といった重大な合併症を防ぐために非常に重要です。その中で中心的な役割を果たすのが、体内の「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系」と呼ばれるシステムを阻害するお薬です。ARBとACE阻害薬はどちらもこのシステムをターゲットにしていますが、そのアプローチ方法が異なります[4]。

当薬局の調剤現場でも、患者さまから「これまで飲んでいた薬と名前が少し違うけれど、何が違うの?」といったご質問や、「薬が変わってから咳が出るようになった気がする」といったご相談をいただくことがよくあります。これらの疑問や不安は、まさにこれら2つの薬剤グループの「作用メカニズム」と「副作用」の違いから生じるものです。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系
血圧や体液量を調節する体内の代表的なホルモンシステムです。腎臓から分泌される「レニン」を起点とし、最終的に強力な血管収縮作用を持つ「アンジオテンシンII」が作られることで血圧が上昇します。
AT1受容体(アンジオテンシンII受容体1型)
アンジオテンシンIIが結合するアンテナのような場所(受容体)です。ここに結合することで血管が収縮し、アルドステロンが分泌されて血圧が上がります。ARBはこの結合を直接妨げる働きをします。

ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の特徴と作用

ARBは「Angiotensin II Receptor Blocker」の略称で、血圧を上げる直接の主役である「アンジオテンシンII」が血管などの受容体に結合する最終ステップを直接ブロックするお薬です[3]。

アンジオテンシンIIは、体内で最も強力な血管収縮作用を持つ物質の一つです。これが「AT1受容体」という部分に結合すると、血管が強く収縮して血圧が跳ね上がり、同時に水分や塩分を体内に溜め込む反応が起こります。ARBは、この結合を高い選択性で遮断することにより、スムーズに血管を広げ、余分な水分を排出させて血圧を安定させます[3][4]。

実臨床において、ARBは非常に人気が高く、第一選択薬として頻繁に用いられます。その理由は、血圧を下げる確かな効果に加え、後述する「空咳」などの不快な副作用が非常に少なく、患者さまが毎日継続して服用しやすい(アドヒアランスが良い)点にあります[2]。

服薬指導の際に、患者さまから「血圧の薬は一生飲み続けなければならないのか」と相談されることが多くあります。ARBは優れた臓器保護効果(特に腎臓の血管を守る作用)を持ち合わせているため、糖尿病性腎症の進行を抑える目的で、高血圧がそこまで深刻でない段階から処方されることも珍しくありません。当薬局では、単に数値を下げるためだけでなく、将来的な腎臓や心臓への負担を減らす「守りのお薬」としての側面を患者さまに丁寧にお伝えし、前向きに治療に取り組んでいただけるようサポートしています。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬の特徴と作用

ACE阻害薬は、アンジオテンシンIという前駆物質を、血圧を上げる活性型の「アンジオテンシンII」へと変化させる「ACE(アンジオテンシン変換酵素)」の働きを阻害するお薬です。

この阻害作用により、体内でのアンジオテンシンIIの合成そのものが抑えられ、血管が拡張して血圧が下がります[3]。また、ACE阻害薬は心血管系の保護、特に心不全患者における生存率の改善や心機能の低下を抑制する強力なエビデンスを豊富に持っており、世界的なガイドラインでも高く評価されています[1][4]。

しかし、ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、血圧上昇ホルモンの合成だけでなく、体内の別の物質である「ブラジキニン」という血管拡張・炎症誘発物質の分解も担っています。ACE阻害薬によってこの酵素の働きが抑えられると、体内のブラジキニンが分解されずに蓄積してしまいます。このブラジキニンの増加が、気道を刺激して「空咳」を引き起こす最大の原因となります[3]。

実際の処方パターンとして、ACE阻害薬は心筋梗塞を起こしたことのある患者さまや、心不全の傾向が見られる患者さまに対して非常に強く推奨されます[1]。調剤の現場では、心機能低下を伴う高血圧の患者さまにACE阻害薬が処方されるケースが多く、その際には血圧管理のみならず、呼吸器系の変化(特に咳の有無)について細心の注意を払いながら経過を観察するよう、患者さまにお声がけしています。

ARBとACE阻害薬の安全性と副作用はどう違う?

降圧効果そのものについては、多くの臨床研究においてARBとACE阻害薬で大きな差はないと報告されています[2]。しかし、治療の継続性や安全性に直結する「副作用のプロフィール」には明らかな違いがあります。

最も顕著な違いは、先述した「空咳(からせき)」の発生頻度です。大規模な比較レビューにおいても、ACE阻害薬を服用した患者では、ARBを服用した患者に比べて咳による薬の服用中止率が有意に高いことが確認されています[2]。この咳は痰を伴わない乾いたコンコンという咳で、夜間や横になったときに悪化しやすい特徴があります。薬を中止すれば数日から数週間で自然に消失しますが、風邪と勘違いして放置されてしまうケースもあります。

当薬局では、ACE阻害薬が新たに処方された患者さまから「最近喉がイガイガして、特に夜間に乾いた咳が出て眠れない」というフィードバックをいただくことがしばしばあります。このような場合、自己判断での中止は血圧の急激な上昇を招くため非常に危険ですが、我々薬剤師から主治医へ副作用の状況を正確に情報提供(トレーシングレポート等)を行うことで、咳の出ないARBへスムーズに切り替えていただくよう介入を行っています。患者さまが「薬のせいで咳が出ていたんだ」と納得されることで、不快な症状を速やかに解消し、安全に血圧治療を継続することができます。

比較項目ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
作用メカニズムアンジオテンシンIIが受容体に結合するのをブロックする[3]アンジオテンシンIIが作られる酵素(ACE)を阻害する[3]
空咳の発生頻度極めて低い(プラセボと同等レベル)[2]比較的高い(服用者の5%〜20%に発生)[2]
主な強み・エビデンス副作用が非常に少なく継続しやすい。糖尿病性腎症の保護効果。[2]心不全、心筋梗塞後の心臓保護、予後改善データが極めて豊富。[1]
重篤な副作用(共通)血管浮腫(極めて稀、顔面や喉の腫れ)、高カリウム血症、腎機能低下(定期的な血液検査が必要)

降圧薬の選び方と使い分けの基準

医師が患者さまに対してARBまたはACE阻害薬を選択する際には、患者さまが抱える「他の病気(併存疾患)」、年齢、過去の服薬歴、そして患者さまの日常生活の様子(ADL)など、総合的な観点から決定されます[2][4]。

一般的に、糖尿病を合併している高血圧患者さまには、腎機能を保護する効果の高いARBが強く推奨されます。一方で、慢性心不全や心筋梗塞を起こしたことのある患者さま、あるいは軽度の認知機能低下があり誤嚥(食べ物や水分が誤って気管に入ること)のリスクがある高齢者には、ACE阻害薬があえて積極的に選ばれることがあります。これは、ACE阻害薬による「ブラジキニンの蓄積」が、咳反射や嚥下反射を司る「サブスタンスP」という物質の分泌を促し、結果として高齢者の誤嚥性肺炎を予防する副次的効果が期待できるためです。

⚠️ 注意点

ARBおよびACE阻害薬は、いずれも「胎児への影響」が懸念されるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は原則禁忌とされています。不妊治療中や妊娠を計画されている場合は、必ず事前に医師または薬剤師へお申し出ください。

当薬局の調剤経験においても、処方意図を読み解くことが患者さまの安全に直結します。例えば、高齢者施設に入所されている患者さまにACE阻害薬(エナラプリル等)が処方されている場合、単なる降圧目的ではなく「誤嚥性肺炎の再発防止」を兼ねているケースを頻繁に経験します。このような場合には、咳をただの副作用として否定的に捉えるのではなく、「食事の際のむせ込みに変化はないか」「唾液や食事をスムーズに飲み込めているか」といったフォローアップ項目を重点的に確認し、お薬が患者さまのQOL(生活の質)向上に寄与しているかを評価しています。

まとめ

ARBとACE阻害薬は、ともにレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系に働きかけ、優れた血管拡張作用と臓器保護作用を発揮する高血圧治療に不可欠な薬剤です[3][4]。血圧を降下させる効果そのものに本質的な上下はありませんが、ACE阻害薬は「空咳」が発生しやすい一方、高齢者の誤嚥防止に役立つという特徴的なメリットを持ち合わせています[2]。一方で、ARBは副作用の少なさから飲み続けやすく、糖尿病性腎症などの予防においても広く選ばれています。ご自身に処方されているお薬に不安や疑問がある場合、または気になる症状がある場合は、決して自己判断で服用を中止せず、まずはかかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

質問:ACE阻害薬を飲んでいて咳が出るようになった場合、どうすれば良いですか?
回答:まずは医師または薬剤師にご相談ください。喉のイガイガや乾いた咳(空咳)が続く場合、ACE阻害薬の副作用である可能性があります。絶対に自己判断で服用を中止せず、受診を検討してください。医師の判断により、咳が出にくい「ARB」などの他の降圧薬へ切り替えることで、多くは数日から数週間で咳が消失します。
質問:ARBとACE阻害薬を一緒に(併用して)飲むことはありますか?
回答:原則として、高血圧治療においてARBとACE阻害薬を併用することはありません。同じホルモン経路(RAA系)を異なる段階で二重にブロックすることになり、血圧が下がりすぎたり、高カリウム血症や腎機能障害といった深刻な副作用のリスクが大幅に増加するため、一般的には避けるべき併用とされています。
質問:これらの薬を飲んでいるときに、サプリメントや食事で注意することはありますか?
回答:ARBやACE阻害薬を服用している間は、体内に「カリウム」という電解質が蓄積しやすくなるため、「高カリウム血症」に注意が必要です。カリウムを多く含むサプリメントや青汁、あるいは減塩塩(塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを使用しているもの)の過剰な摂取は避けてください。また、定期的な血液検査でカリウム値をチェックすることが推奨されます。
この記事の監修
💼
小林瑛
管理薬剤師・旭薬局池袋店
💼
佐藤義朗
薬剤師・有限会社旭商事 代表取締役