糖尿病の薬と低血糖|対処法と予防法
最終更新日: 2026-08-28
糖尿病の治療において、血糖値を適切にコントロールするために処方される薬は非常に重要ですが、何らかの理由で血糖値が下がりすぎてしまう「低血糖」という副作用への対策は欠かせません。 低血糖は糖尿病治療を進める中で誰もが遭遇する可能性のある身近なリスクであり、そのメカニズムや適切な予防法、万が一の対処法を正しく理解しておくことは、安全な治療を継続するための土台となります。 薬の効き目と体内のブドウ糖の需給バランスが崩れた際に起こるこの現象について、医学的な背景を交えながら詳しく解説します。
📋 この記事のポイント
  • ✓ 糖尿病の薬の作用や体調の変化によって、血糖値が下がりすぎる「低血糖」が起こる場合があります。
  • ✓ 冷や汗や動悸、手足の震えなどの初期症状を察知したら、速やかにブドウ糖を補給することが重要です。
  • ✓ 日々の食事や運動の管理、体調不良時の減薬・休薬ルールを事前に把握することで低血糖は予防できます。
※ 本記事は医療広告ガイドラインに基づき作成されています。記事内には当薬局の提供するサービスに関する情報が含まれます。

糖尿病の薬と低血糖の関係とは?

糖尿病の薬物治療を安全に進めるためには、血糖値を下げげる薬剤の作用と、生体内のブドウ糖濃度が極端に低下する「低血糖」の発生機序を正しく把握しておく必要があります。

血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度である「血糖値」は、通常、膵臓から分泌されるインスリンなどのホルモンによって一定の範囲(約70〜140mg/dL)に微調整されています。しかし、糖尿病の患者さまではインスリンの分泌量が不足したり、働きが悪くなったりして慢性的な高血糖状態にあります。これを是正するために糖尿病治療薬が処方されますが、薬剤の作用が強すぎたり、食事による糖分摂取が不足したり、筋肉での糖消費が過剰になったりした際に、血糖値が基準を下回って低下する「薬剤誘発性低血糖(Drug-Induced Hypoglycemia)」が発生します[1]。この薬剤誘発性低血糖は、2型糖尿病の薬物療法における最も主要な合併症(有害事象)の一つとして臨床で広く認識されており、治療目標の達成を阻む大きな要因にもなり得ます[2]

低血糖(Hypoglycemia)
一般的に血糖値が70mg/dL未満に低下した状態を指します。脳をはじめとする全身の臓器へのエネルギー源であるブドウ糖が不足することで、自律神経や脳神経に様々な不調(警告症状や意識障害)をきたします。
シックデイ(Sick Day)
糖尿病の患者さまが、風邪や胃腸炎、発熱、下痢などの急性疾患に罹患し、食欲不振に陥ったり食事が十分に摂れなくなったりした状態(体調不良の日)のこと。この時期は薬の効き方が不規則になり、低血糖や著しい高血糖のリスクが高まります。

低血糖を引き起こしやすい糖尿病の薬とは?

糖尿病治療で用いられる医薬品は多岐にわたりますが、その作用機序によって低血糖を引き起こする危険度(リスクレベル)は大きく異なります。

低血糖のリスクが最も高い薬剤は、体外から直接的に血糖を低下させる「インスリン注射製剤」と、膵臓のβ細胞を刺激して強制的にインスリンの分泌を促す「スルホニル尿素(SU)薬」です。これらの薬は、食事の摂取量や血糖値の高さに関係なく作用を発揮するため、使用時には細心の注意が必要となります。一方で、近年の新しい治療薬(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド薬など)は、単剤で使用している限り低血糖のリスクは極めて低いとされています。ただし、これらのリスクの低い薬剤であっても、インスリン製剤やSU薬などと併用される場合には、相互作用によって深刻な低血糖が引き起こされるケースが数多く報告されています[3]

当薬局では、新しくSU薬(スルホニル尿素薬)やインスリン製剤が処方された患者さまから、「低血糖が怖くて、ついついご飯を食べすぎてしまう」「薬を飲むのが不安」といったお声をいただくことがよくあります。過度な恐怖心から食事制限を緩めてしまうと、本来の血糖コントロールが乱れてしまうため、服薬指導の際には患者さまの普段の食事時間や一日の活動量を細かくお聞きしています。当薬局の調剤経験では、患者さまのライフスタイルを把握した上で、適切な補食のタイミングやシックデイの対処法を個別にご案内することで、約1〜2ヶ月ほどで低血糖への不安が和らぎ、適切な血糖数値を維持できるようになる方が非常に多いです。また実際の処方パターンとして、高齢の患者さまや腎機能が低下している患者さまに対しては、低血糖を回避するために比較的マイルドに作用するDPP-4阻害薬や配合剤が選択される傾向にあります。

薬剤の系統単剤での低血糖リスク特徴・主な注意点
インスリン製剤(注射)高い体外から直接インスリンを補うため、食事量の低下や投与量の誤り、注射タイミングのズレが直接低血糖につながります。
スルホニル尿素(SU)薬高い膵臓を強く刺激して持続的にインスリン分泌を促すため、特に高齢者や腎機能低下者で低血糖が持続しやすい傾向にあります。
グリニド薬(速効型分泌促進薬)中程度作用時間が短いため持続的な低血糖は稀ですが、服用直後の食事の遅れなどにより突発的に起こることがあります。
DPP-4阻害薬 / GLP-1受容体作動薬極めて低い血糖値が高いときにのみインスリン分泌を促すため、単剤では低血糖を起こしにくいです(※SU薬やインスリンとの併用時は注意)。
SGLT2阻害薬極めて低い過剰な糖を尿中に排泄する仕組みであり、単剤での低血糖リスクはほぼありません(※他の血糖降下薬との併用時を除く)。
ビグアナイド薬 / チアゾリジン薬極めて低いインスリンの効き目を改善したり肝臓での糖新生を抑えたりする作用のため、単剤では低血糖のリスクは極めて低いです。

低血糖が疑われる初期症状と危険な兆候とは?

低血糖は放置すると重篤な意識障害を引き起こす恐れがあるため、体が発する初期の警告サインを見逃さないことが何よりも大切です。

血糖値が低下するにつれて、体内では段階的に症状が現れます。血糖値が70mg/dL以下になると、まず交感神経(自律神経)が緊張し、冷や汗、動悸(胸のドキドキ)、手足の震え、不安感、顔面蒼白、異常な空腹感といった「自律神経症状」が現れます。さらに血糖値が50mg/dLを下回るレベルになると、脳のエネルギーが著しく枯渇し、頭痛、めまい、疲労感、生あくび、目のかすみ、集中力低下といった「中枢神経症状」が引き起こされます。この時点で適切な処置を行わなければ、痙攣(けいれん)や意識混濁、さらには昏睡状態に陥り、生命に大きな危険を及ぼす合併症へと発展し、救急搬送されるケースも少なくありません[4]

実際の調剤現場では、高齢の患者さまやそのご家族から、「最近、おじいちゃんが昼前になると急に怒りっぽくなる」「生あくびがよく出ている」といったご相談をいただくことがあります。高齢者の低血糖は、自律神経症状(冷や汗や動悸など)が出にくく、一見すると単なる認知機能の低下や疲労のように見える中枢神経症状から始まることが少なくありません。当薬局では、このようなご家族の「いつもと違う」という違和感を見逃さず、服薬指導の段階で「怒りっぽさや無気力も低血糖のサインかもしれません」とお伝えしています。フォローアップの問診の際には、低血糖の発生頻度やその時間帯、ご家族から見た様子の変化などを毎回詳細に確認し、必要に応じて主治医への処方提案や調整を積極的に行っています。

⚠️ 注意点:無自覚低血糖(Hypoglycemia awareness)

糖尿病の病歴が長い方や、自律神経障害を合併している患者さま、また一部の薬(β遮断薬など)を服用している場合、低血糖時の警告症状(冷や汗や動悸など)が全く現れない「無自覚低血糖」が起こることがあります。警告症状がないまま突然昏睡に陥る危険があるため、定期的な血糖測定と、ご家族など周囲の人の目配りが重要になります。

低血糖が起きたときの正しい対処法とは?

低血糖が疑われる症状が現れた場合は、パニックにならずに速やかかつ正確な手順で糖分を補給することが救急搬送や重症化を防ぐ鍵となります。

低血糖状態から速やかに回復を促すために、最も有効なのは「ブドウ糖」の直接摂取です。ブドウ糖は消化プロセスを経ずに速やかに血液中へ吸収されるため、低下した血糖値を急速に引き上げることができます。一般的な砂糖(ショ糖)やジュース、飴などでも対処できますが、脂質の多いチョコレートやクッキーなどは吸収に時間がかかるため、緊急時の一次対処には不向きです。さらに、食事による糖質の吸収を阻害する糖尿病薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)を併用している場合は、砂糖を摂取しても分解がブロックされて血糖値が上がらないため、必ず「ブドウ糖そのもの」を摂取しなければなりません。

当薬局の調剤経験において、α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボースやボグリボースなど)を服用中の患者さまから、「低血糖になったときに、手元にあった普通のチョコレートを食べたけれど、症状がなかなか治まらなかった」というヒヤリハットの事例を伺ったことがあります。このタイプの薬は糖質の分解・吸収を大幅に遅らせるため、一般的な砂糖(ショ糖)や脂質の多い菓子類では速効性が期待できません。そのため、調剤の現場では「お渡しする専用のブドウ糖を必ず携帯してください」と視覚的な資材を用いて繰り返し説明しています。また、意識が朦朧として自分で薬を飲めない事態に備え、ご家族に対しても「唇や歯茎の内側にブドウ糖ペーストやジュースを塗りつける方法」をあらかじめレクチャーする診療サポートを実践しています。

  1. 安全な場所を確保して安静にする:めまいやふらつきで転倒する危険があるため、速やかに安全な場所に座るか、横になります。車の運転中の場合は、速やかに路肩など安全な場所に停車させてキーを抜きます。
  2. 速やかにブドウ糖を摂取する:ブドウ糖10g、またはブドウ糖を含む飲料(市販の清涼飲料水やゼリー飲料など)を150〜200mL摂取します(砂糖の場合は20gを摂取します。ただしα-グルコシダーゼ阻害薬服用時は必ずブドウ糖にします)。
  3. 15分間様子を見て、改善しない場合は再度摂取する:糖分を補給してから約15分安静にし、症状が落ち着くか確認します。全く改善しない場合は、同量のブドウ糖(10g)を再度摂取します。
  4. 回復後の再発に備えて補食を摂る:低血糖から回復した後も、次の食事まで時間がある場合は、再び血糖値が下がるのを防ぐために、おにぎりやパン、クッキーなどの炭水化物を軽く摂取して安静を維持します。

低血糖を予防するための日常的な注意点とは?

日常のちょっとした工夫や生活習慣のコントロールによって、糖尿病治療に伴う低血糖の発生リスクは大幅に低減させることができます。

予防の3大基本は「規則正しい食事」「適切な運動」「確実な薬の服用」です。食事時間を一定に保ち、主食(炭水化物)を抜かないことが大前提となります。また、運動は血糖値を下げる効果がありますが、空腹時の激しい運動や、過度な運動は低血糖を誘発しやすくなります。運動を行う場合は、食後1〜2時間の血糖値が比較的安定しているタイミングを選び、長時間の運動時にはあらかじめ補食(軽食)を携行することが望ましいです。また、アルコールの摂取は肝臓での糖新生(糖を新しく作る仕組み)を強く抑制するため、飲酒後数時間から翌日にかけて深刻な遅発性低血糖を引き起こすリスクがあり、適量を守るか控えることが賢明です。

服薬指導の際に、患者さまから「風邪を引いて食事が全然摂れないから、今日の薬は全部やめておいたよ」と相談されるケースが少なくありません。自己判断で完全に薬を中断すると、かえって急激な高血糖を招いたり、病状が悪化したりする恐れがあり非常に危険です。当薬局では、このようなシックデイにおける具体的な薬の服用ルールを、あらかじめ主治医と連携して作成した『個別シックデイルール用紙』としてお渡ししています。これにより、体調が悪いときでもご自身で適切に休薬や減量の判断ができるようになり、重篤な低血糖や高血糖による救急搬送を未然に防ぐことができています。フォローアップの際にも、最近風邪を引かなかったか、その際の薬の服用状況に問題はなかったかを必ず確認しています。

まとめ

糖尿病の治療を進める上で、薬による低血糖は注意すべき重要な副作用ですが、その仕組みと特性を正しく理解していれば、決して過度に恐れる必要はありません。自身の処方されているお薬の低血糖リスクを把握し、冷や汗やふらつきといった初期症状がみられたらただちにブドウ糖を補給する手順を習慣づけておくことが大切です。また、日々の食生活や運動のタイミングを整えること、そして体調不良時の「シックデイルール」をあらかじめ主治医や薬剤師と相談して共有しておくことが、健康で安心な療養生活への確実なステップとなります。疑問や不安があれば、いつでもお気軽に薬局の薬剤師にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 糖尿病の薬を飲み忘れた場合、次の食事のときにまとめて2回分飲んでもいいですか?
A1. 絶対に2回分を一度に服用してはいけません。薬効が強く出すぎてしまい、重篤な低血糖を引き起こす可能性が非常に高くなります。飲み忘れに気づいた場合、直後の食後であればすぐに服用できるケースもありますが、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばし、次回から通常通り服用してください。個別の薬によって判断が異なりますので、事前に当薬局の薬剤師に相談しておくことをおすすめします。
Q2. 低血糖対策で持ち歩くブドウ糖は、どのようなものがおすすめですか?
A2. 薬局でお渡ししている個包装の固形ブドウ糖や、速効性の高いジュース・ゼリータイプのブドウ糖飲料がおすすめです。また、いざという時に手元にないという事態を防ぐため、普段使うカバン、財布、オフィスの引き出し、寝室の枕元など、日常生活でよく過ごす複数の場所に小分けして配置しておくのが最も安心できる方法です。
Q3. インスリン注射をしてすぐに食事を摂れない場合、どうすればよいですか?
A3. 超速効型や速効型のインスリン注射は、投与後すぐに血糖を下げる作用が始まるため、注射の直後に必ず食事(炭水化物を含むもの)を摂取する必要があります。もし何らかのトラブルで急に食事が摂れなくなった場合は、速やかにブドウ糖やジュースなどの糖分を摂取し、まずは低血糖を予防してください。その後、体調や状況に合わせて主治医や当薬局の薬剤師に連絡し、その後の注射や食事の調整方法について指示を仰ぎましょう。
この記事の監修
💼
小林瑛
管理薬剤師・旭薬局池袋店
💼
佐藤義朗
薬剤師・有限会社旭商事 代表取締役